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Seasoning+

人生にスパイスを。

ブレンドコーヒー

昨晩、元彼と電話をした。

彼との最後は、ちょっとしたすれ違いでお互いが酷く後悔をした、後ろ髪引かれる別れだった。

その後、私に恋人が出来たと勘違いした彼は、容姿が私によく似た彼女をつくった。

穏やかで控えめな彼女の名前は「ゆき」といって、私は冬が嫌いになった。


一方、恋人のできない私は彼との別れを引きずり、地を這いずりながら胸の穴を埋めるように違う男との逢瀬を繰り返していた。


そんなとき、彼女のいる彼から

「お前のことも好きだ」

と告げられ、私は酷く混乱した。

それでも良いと飛び込んだ沼の中で、彼女を大切にするあまり、手を触れることが出来ないという彼の心情に私は傷つけられた。

彼女を汚せない代わりに、私というおもちゃに手垢をつけて欲を満たしているのではないかと、核心に触れた瞬間に何度も地に叩きつけられた。


それでも、昨晩の電話で彼は

「お前のことが好きだ」

と言った。

信じても良いのかと弱々しく聞くと彼は、もちろんと言った。


今日の待ち合わせは9時20分。

彼からの連絡はなく、現在は10時。

逃げるように入った喫茶店でブレンドコーヒーとスコーンを頼んだ。

寒い窓際でコーヒーを飲みながら

歳上の男が言っていたアメリカンとブレンドの違いを思い出そうとしたけれど、覚えていなかった。

ブレンドコーヒーは苦かった。

次はアメリカンにしようと思った。

18時

日曜日、男を難波へと連れ出した。

今日はあったかいよ、とLINEを送ると彼はニットで私を待っていた。

うっかりして10分遅刻した私は、電車に揺られながら謝罪の言葉ばかりを考えていた。


時刻は14時。

彼と腕を組み、30cmもの身長差を埋めるように履いたブーツと、左手に揺れるカバンはマゼンタ。

どうか恋人にみえますようにと祈った。


16時。

1時間30分もとったカラオケは、部屋が埃ぽかったせいか彼は咳をして、満足に歌えずにいた。


17時。

何かに引っ掛けて破れてしまったストッキングを薬局で買って、ホテルに入った。


18時。

1時間という制限の中で、お喋りも程々にすぐにベッドに沈んだ。

私を組み敷いた彼を見上げると、飢えた男の顔をしていて、おかしくて笑ってしまった。

私より扇情的でどうするんだ。


そのあと、すっかりネオンが映える夜の道頓堀を歩いた。


「sexはやっぱ、いいもんだね」


なんて彼が言うので、どうして?と続きを促すと


「愛の確認…みたいな」


と笑うので、どの口が言うんだと脇腹を小突いた。

標本

14歳上の男と知り合ったのは去年の夏のことだ。

偶然に母校を同じくした私たちは、7月に初めて顔を合わせることになる。

危ない物に指先で触れて、

「あぁ、痛い」

と顔を顰めながら絆創膏を貼る予定だったのだけれど、

男が隠し持っていた刃は私の腹部を貫き、内臓を撒き散らすハメになった。

致命傷だ。

少年が無邪気に収集した蝶の標本さながらに、私は今でも捕らわれている。

食事だけのデートや甘い言葉は防腐剤。

私が腐ってしまわないように、いつまでも自分のガラスケースに手足を広げて無防備に眠っていてほしいのだろう。

けれど、捕らわれた蝶はガラスケース越しに、いつも羽ばたくタイミングをうかがっている。

 

私は 蛾 だけれども…。

 

アドバルーン

私宛に、「愛してる」とか「好きだ」とか

スーパーで残り物として売られて、夕方には半額のシールが貼られてしまうようなチープで、「どうか買ってくれ」と縋るような言葉をアドバルーンに結んで飛ばしてほしい。



私は校舎の窓から、それを見つけて

バカみたいに「私の方が好きだ」と叫びたい。


今年も彼氏は出来そうにない…